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公益社団法人 日本学校歯科医会

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スポーツと学校歯科

動画

スポーツ歯科医学総論(2023.10.02)

日本学校歯科医会
学校安全教育調査研究委員会
顧問 安井 利一

スポーツ歯科医学マウスガード(2023.10.02)

日本学校歯科医会
学校安全教育調査研究委員会
顧問 安井 利一

スポーツ歯科と安全教育~マウスガードの取組~(2023.10.02)

日本学校歯科医会
常務理事 澤田 章司

事業紹介

マウスガード作製費用の公的補助を行っている行政の紹介(2023.12.25)

文部科学省の「スポーツ基本計画」では、子供たちのスポーツにおける外傷予防のためにマウスガードの着用の効果等の普及啓発について取り上げています。しかし、歯科医療制度では、マウスガードは自由診療扱いとなっています。こうした中、マウスガード作製費用の一部を補助している地方公共団体がございますので、ご紹介いたします。

学校安全教育調査研究委員会の事業2021/2022について
~スポーツ歯科における安全教育と「マウスガードの普及・周知」~

災害共済給付制度歯牙欠損見舞金について

スポーツ歯科の普及・調査研究について

文責:平成29・30年度日本学校歯科医会 学術委員会 委員長 明海大学・学長 安井利一

1.子供の噛み合わせとスポーツは関係するか?

相撲の世界では「奥歯の三枚目で噛め」という伝承があるという。一般社会においても「重い物を持つときは食いしばっている」と言われてきた。スポーツパフォーマンスは心・技・体の総力であるが、噛み合わせはどのような影響があるのかを総論的に検証したい。噛み合わせは上下の歯の接触によって生じてくるが、その接触によって生じてくる接触面積、接触してから噛み締める力である咬合力、さらには接触したときの左右前後の噛み合わせにより生じてくる重心位置などの要素がある。これまでの研究において、小学生では,例えば,懸垂腕屈伸のような筋力発現に奥歯の噛み締め力が関与していることが示唆される一方で、遠投では関与性が低いことも示唆されており、スポーツ競技特性によって噛み合わせの関与は変化すると考えられる。また、人によってスポーツ時に噛み締める習慣を有するものと有しない者がおり、その違いによっても発揮される能力に違いがあるとの指摘がある。

2.噛み締めることはスポーツに有利か?

噛み締めと筋力の関係については、等尺性筋収縮活動(筋肉の長さが変わらずに力を出す背筋力のような活動)や肩関節内転運動(肩をゆっくりと内側に動かす運動)に効果が認められ、アームレスリング(腕相撲)等での優位性が指摘されている。また、ヒラメ筋(下肢のふくらはぎ側)と前脛骨筋(下肢の前側)との運動生理学的研究からは、噛み締めることで両側の筋肉が互いに緊張することがわかっている。したがって、基本的には関節の固定効果が増加すると考えられ、関節固定の必要な場面においての優位性が指摘されている。

3.噛み合わせが失われると体は揺れる?

咬合接触面積については身体重心動揺との関連性が指摘され、静止状態の必要な場面においては咬合接触面積の増加と顎位の安定の優位性が指摘されている。特に、奥歯の噛み合わせを失うと、体の揺れが大きくなることが分かっている。6歳ころに生えてくる第一大臼歯は「噛み合わせの鍵」とも言われるが、食べる機能も運動の機能においても「鍵」となる歯だと考えられる。したがって、体操競技の一部の動作、フィギュアスケートの一部動作、射撃関係、アーチェリーなどの競技種目においては咬合関係の維持が重要となると推察される。

4.子供の歯の外傷の状況

子供の歯や口の外傷発生状況を知るには、学校で発生した傷害に対して医療給付などを実施している独立行政法人日本スポーツ振興センターのデータを利用するのがよい。学校の管理下における児童生徒等の災害(負傷・疾病、障害、死亡)に対して災害共済給付(医療費、障害見舞金、死亡見舞金の支給)を行っており、統計データとしてはもっとも信頼できる。学校の管理下で発生する災害の中で、平成16年度~平成25年度の間に発生した体育活動(体育の授業、運動部活動、体育的行事等)における事故で、災害共済給付の障害見舞金(第1級~第14級)を給付した事例1998例を対象に分析した結果をみると平成25年度の歯の障害については19.0%となり、視力・眼球障害(25.0%)および外貌・露出部分の醜状障害(23.4%)に次ぐ高い値となった。歯の外傷は、身体の発育状態にしたがって件数が増加し、高等学校では件数が多くなっているのが特徴である。

5.子供の歯の脱臼と救急対応

歯がすぽっと抜けて脱落した場合には、適切な処置により再植が可能になるので、慌てずに対応することが望まれる。脱臼した歯は可能な限り早く(30分以内)抜けた場所に戻すことが必要である。しかし、時間の経つのは早いので、見つけ次第、保健室に「歯の保存液」が準備していれば、保存液に直ちに入れるか、あるいは家などでは「冷たい牛乳」に入れるのが良い。こうすると、6時間くらいは余裕ができる。歯を再植するには歯根に付着している歯根膜と呼ばれる組織が大切である。したがって、歯に触れるときは歯冠を持つようにする。文部科学省学校歯科保健参考資料には図のように示されて、その後、歯科医院で処置をする。

6.スポーツ外傷の予防とマウスガード

マウスガードは「スポーツによって生ずる歯やその周囲の組織の外傷を予防したり、ダメージを軽くしたりする目的で、主に上の歯に装着する軟性樹脂でできた弾力性のある安全具」を意味する。マウスガードの源は1892年頃英国のボクシング選手に使用したのが始まりである
現在、外傷予防に使用する装置にはマウスガードという言葉が一般的に使用されている。しかしボクシングでは、マウスピース発祥のスポーツであり、当初からマウスピースと呼称されていた歴史があるので、現在でもマウスピースと呼んでいる。

7.マウスガード装着の時の注意事項

マウスガードには、市販されている種類と歯科医院で作製する種類があり、以下の事に留意されたい。

  • a スポーツにより歯や口腔に外傷を受ける機会があり、場合によっては歯の喪失や顎骨の骨折あるいは軟組織の障害をもたらす可能性が常に存在すること。
  • b マウスガードを装着することで、その危険性を低下させることができること。
  • c マウスガードの装着により、嘔吐感、発音障害の発生することがあること。
  • d 発音障害は、サ行、タ行、ラ行などで発生するが、ある程度は調整できること。
  • e これらの違和感は、使用するなかで徐々に改善されること。
  • f むし歯や歯周病は装着前に治療を完了しておくこと。
  • g 定期的(1年に2回程度)にチェックをうけること。
  • h 使用頻度、発育途上にある年齢かどうかなどの要因で作り替える期間が異なること。

歯や噛み合わせは運動やスポーツに関わりを持っている。健康のため、記録のためと目的は違っていても、噛み合わせを保つことは、しっかり食べて身体をつくり、外傷を予防することの基本となる。

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